2018年8月

盂蘭盆会四当分のケーキかな



2018年7月

来世では女に生まれたくないと微笑む祖母の背のちいささ



2018年6月

初夏の頬あからんで桃に似る 恋は迷信恋は迷信

田舎にも愛だけはある真夜中のファストフードで語らうための



2018年5月

どこまでも正方形の続くみち田田田田田田田そして古里

君が起きたときが朝と云うようだファミリーマートの入店音は



2018年4月

春うらら暮れゆく空を眺むればさくら舞い散る東京メトロ



2018年3月

人はみな兄弟なりや待合の上原たちが顔上ぐる春



2018年2月

静けさが窓から忍び込んでくる流れる雪の聲のさやけさ

シャガールになりたいまたは海へでて月にむかって漕ぎつづけたい



2017年12月

蛇行せし川とこごみの埋まりたるかなしきほどに真っ直ぐな道

剥がすように窓押しあける偽善者は使いこなせぬ言葉のひとつ



2017年7月

雨音のテントがあれば大丈夫思ってもないことを言おうよ

宙空に部屋のぽっかり浮かびおり茶漬けを食らう七月八日

子が泣かず蝉も鳴かざる夕べには耳孔が昏く開きつるかも



・布団干す

・シーツを替える

・歯医者行く

・いい人になる

・生きる(できたら)



2017年6月

夏薫るパセリと鶏の炒め物庭から庭へ風の裾分け

もう一度鳴かせんとしてかっこうと呼べば答うるミとドの谺



2017年5月

お洒落して気取ってカフェに行くような人を愛するところは祖父似

午前零時遠くの空が明るくて飛べない猫を抱きしめている

星影の隙より垂れる金鎖夜とはこんなに静かだったか

賑はしき屋より出づれば賑はしき蛙のこゑに迎へられたり

昭和には場末があった死語だよと笑い止まない母の中にも

手を振って思い出そうとする祖父の言いたいことがわかる春暁

階段の十二段目で足あげて跨いで通る猫を飼う家 /題詠

夕立や階下を揺らす足のおと



2017年4月

爪よりもちひさき虫の棲む土を掬ひ上げたる母の掌

この世にも地獄がありて地獄にも吹き出すような刹那ありけり

「ひらがなのよが好き。下の巻いたとこ」夜中の嫁のよしなし言よ /題詠

凹凸の凸が足りないたくさんの一人をのせて地球は回る



2017年3月

つややかに光る桜の力瘤咲かん咲かんと天を突き刺す

春風はものの命を育まん吾積雪の背を追い越しぬ

気だるげな星と一瞬目があって二秒前より寒さも丸い

生命の息吹ぞ風に混ざりたるくしゅんくしゅんと春の挨拶



春と云い

春だと叫び

まだ足りず

耳を澄ませて

ややあって 春



2017年2月

山々の腕(かいな)に抱かれわが町は笑い疲れてしずかに眠る

神もまたかくて天地を生み出さんタクト慄わす第九の指揮者

人が二人いて陰陽のかたち為す冷めた紅茶に目もくれぬ午後



2016年12月

大きなる御手であらんや伊勢の神一せいに鳴る参道の鈴

しろたえの発泡トレーの棺桶よぞんざいな手の墓荒らしたち

去る年を送りし人の耳たぶを微かに揺らす鶏日の声

クリスマス・ツリーもようの鉛筆を叔父に貰いし思い出ひとつ



「大至急!

漂白剤を買ってきて。

心の染みがよく落ちるやつ



2015年以前

瀬戸物のつがいの鶏も別々の方を向くのだ寄り添いながら

to beという名の自転車(チャリ)に跨りつ菫畠が夜目には白い

容赦なく蚊を殺す手の汚れかな /2008年夏秋 地区4席

天上に赤置く季節曼珠沙華 /2008年夏秋 地区2席



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