シナリオ名《うろんなタクシー》



1.KPさまへ

これは「クトゥルフ神話TRPG」のシナリオです。舞台は現代日本を想定しています。

短時間でヒヤリとして頂く一人用シナリオです。KPは「キーパーコンパニオン」を所持していることが望ましいです。

ご使用、ご改変、動画化はご自由にどうぞ。太字の部分が基本的に読み上げる、またはテキストで貼る部分です。



2.事前情報

舞台:現代日本

形式:特殊クローズド

推奨技能:目星

準推奨技能:ほかの言語(英語)

推奨人数:1人。タクシーに同乗するならばペアでも可能

発狂/不定/ロスト:あり

時間:ボイスセッションで1時間程度

備考:一部リアル制限時間あり



3.シナリオの概要

 真夜中に探索者はそれぞれの理由で黒いタクシーを拾う。タクシーは次第におかしな方向に進み始める。とうとう高速に乗ったかと思うと、辺りは不気味な異世界に一変した。タクシーの運転手は血塗られた舌の教団員であり、探索者を教団の本部に連れて行く気なのだ。

 探索者は後部座席に隠されていたメモを頼りにタクシーから降りなければならない。さもないと教団の本部に連れて行かれ、生贄か狂信者にされてしまう。

 運転手に降ろしてくれと言うと意外にもあっさり降ろされる。不気味な世界を当てもなく探すと地面の下に隠れ家があり、三つの部屋がある。そのうちの一つに電話が用意されており、別のタクシー会社に繋がる。車を一台頼んで探索者は待つことだろう。

 そこにやってきたのは黄色いタクシー。優しそうな運転手に安堵して探索者は車に乗り込み、家へと帰っていく。だがその道中も心穏やかではいられない。黄色いタクシーの運転手はハスターの教団員だったのだ。




4.背景

 ハスターの信仰は地球上で一般的であり、ニャルラトテップの教団も地球上の至る所にある。NPCの運転手が所属するタクシー会社の母体は「血塗られた舌教団」だ。彼らは魔術で作り出した異空間を海外にある本部まで繋げ、生贄を運ぶ際の通り道にしていた。

 ハスターの教団はそこに目をつけた。犠牲者に恩を売ることで唾をつけておき、あわよくば信者として横取りしようと考えたのだ。彼らは隠れ家を用意してこっそり犠牲者を誘導し始めた。

 ニャルラトテップはすぐにハスターの教団員が作った隠れ家に気づいた。そこで元の空間を歪めて通路や部屋を増やし、犠牲者を混乱と狂気に陥れようと考えた。元は階段を降りるとすぐに部屋が一室あるだけの空間だったのである。



5.NPC

・東道 敬(とうどう たかし):27歳。血塗られた舌教団に所属するタクシー運転手。常に嫌な笑みを浮かべている。

STR:11 CON:11 POW:15 DEX:15 APP:10 SIZ:11 INT:16 EDU:16 SAN:0

英語:60% 運転(自動車):80% クトゥルフ神話:60%



6.シナリオ本編

《導入》

KPへ:事前にタクシーを拾う場所が探索者の地元付近かそうでないか聞いて下さい。

真夜中、あなたは一台のタクシーを拾います。黒いタクシーはドアを開けてあなたを後部座席にいざないます。

運転手は嫌な笑みを浮かべた若い男です。運転手は「どちらまで?」とあなたに聞きます。行き先を聞くと車は滑るように動き出します。



車は何事もなく目的地に向かっているように思われましたが、

地元:次第におかしな方向に進んでいきます。

地元でない:次第にあなたは違和感を覚えます。

《ナビゲート》成功:タクシーが目的地の方角に向かっていないことがわかります。

あなたが道が違うと言っても運転手は耳を貸さず、「こちらであっていますよ」と言います。そうこうするうちに車は高速道路に乗ってしまいました。



《不思議な世界》

高速道路のゲートをくぐりぬけた瞬間、辺りが薄明るくなります。

窓の外は今までに見たことがないような奇妙な世界に変わっています。暗い紫色と緑色とが絵画のように混ざった空、灰色がかった木や地面。地平線は不気味に歪んでいます。

運転手は何を道標にしているのか、当てもない荒野を平然と走り続けています。明らかに非現実的な世界に来てしまった事実に《0/1d2の正気度喪失》です。

KPへ:描写が終わったところから30分の時間制限が入ります。これはタクシーが本部に着くまでの時間です。ここからは携帯電話などは圏外になります。

タクシーの内部は通常のものと変わらないので、運転手の顔写真や名前が確認できてもいいでしょう。



◯運転手が話すこと

どこに行こうとしているのか→「我々の本部です」

何の本部か→「血塗られた舌教団の本部ですよ」

目的は何か→神がお望みなら崇拝者の一員に、あるいは生贄にします」

本部はどこにあるのか→「海外にあります」

KPへ:更に具体的に話しても構いませんし、不気味な雰囲気を出すために言葉少なにするのもいいでしょう。ちなみに本部はケニアにあります。また、運転手は「血塗られた舌」がニャルラトテップの化身であることや詳しい性質を知っていてもいいと思います。車のスピードは時速80kmを超えています。

運転手から車を奪ってもこの世界から出ることはできません。《ナビゲート》に成功しても入り口や出口を正確に目指すことはできません。



→車の中を探す、もしくは《目星》成功:後部座席の隙間に小さな紙切れが挟まっています。紙には「この車から降りろ!」と書かれています。そして、歪んだ花のような不思議な紋章がついています。

《クトゥルフ神話》成功で紋章が「黄色の印」だとわかる。

神話技能に成功(もしくはこの印が何であるか知っている)かつ初めて見た場合は、神経に障るような言い知れぬ不気味さと不安を覚えて《0/1d6の正気度喪失》



→探索者が「降りたい」「降ろして」等と言った場合

運転手は「ここでよろしいんですか」と言って車を止めます。そして「料金は結構です」という言葉と共にドアが開きます。

KPへ:運転手の考え方はニャルラトテップに近いものです。この出口のない世界に探索者を放り出し、絶望の中で飢えて狂っていくのも面白く、神が喜ぶに違いないと考えています。

探索者が長く迷うようでしたら「あと◯◯分(残り時間)で着きますので、少々お待ち下さい」などと言って危機感を煽るといいかもしれません。

車の中で運転手を殺すと、彼の仕掛けた魔術によって探索者のロストに繋がるのでやんわり注意して下さい。運転手を殺した場合は「デッドエンドB」へ



→降りないまま30分経過する

こんな状況にも関わらずあなたは次第に眠くなります。《幸運》をお願いします。

成功:「狂信者エンド」へ

失敗:「デッドエンドA」へ



《外に出る》

外は先ほど窓から見たのと同じように、ぐにゃぐにゃした木が点々と生えた異様な世界です。おかしな色の空は雲が流れるように少しずつ流動しています。

タクシーは走り去り、あなたはこの異世界に一人で取り残されました。

※タクシーを止めて待たせることもできる。探索者が望めば運転手と共に探索することも可能。



《目星》成功:荒野の中に一輪の黄色い花が咲いています。

近づいてみると、それは不思議な形の雌しべにくるりと巻いた細い花弁が三枚ついた珍妙な花です。紙切れに書いてあった印によく似ています。

茎には鍵がかけられています。また、花の周りの土に正方形の切れ込みがあり、正方形の左端に鍵穴があることに気づきます。

鍵穴に鍵をあてがえばぴたりと合います。鍵を回すと土が盛り上がって地下への扉が開きました。地下は暗く、狭い階段が続いています。

KPへ:運転手を連れている場合、彼はこの隠れ家について何も知りません。興味深そうに探索し、ニャルラトテップが用意した部屋を見るとより一層にやつくかもしれません。



《隠れ家》

階段を降りてみると、そこは真っ暗な空間です。あなたが手探りで辺りを探れば壁のスイッチが手に触れます。

スイッチを押すと辺りが明るくなります。目の前には三本の通路がありました。低い天井を見上げると裸電球がぶら下がっています。

どの通路にも光源はありませんが、真ん中の通路にだけ不思議な具合で明かりが通っています。左右の通路の先は真っ暗です。

※ニャルラトテップが一つの部屋を引き伸ばして通路と左右の部屋を作ったため。



◯左の部屋

左の通路をしばらく進むと、一つの洞穴のような空間にたどり着きました。暗いですが壁にスイッチを見つけることができます。

灯りをつけると、そこには木製の机があり、床に黒いペンキで模様が書いてあります。机の上には一枚のメモが載っています。



【メモ】(基本ルールブックP289参照)

<門の創造>

別の場所、別の次元、別の世界への門を開く呪文。門を創造するにはPOWを永久的に消費しなければならない。門を使うには、門を創造するために使ったPOWと同じ値のMPを消費する。

門を通って行う旅行一回につき、正気度を1ポイント喪失する。もう一度門を通って帰って来るのにも同じコストが必要。

KPへ:メモを読んだ時点で探索者はこの呪文を習得します。門がどこに通じているかは探索者にはわかりません。すでに作られた門なので探索者の望む場所に出口を設定することもできません。

探索者が新たな門を創造して帰ろうとした場合、「この異空間から自宅までどれだけの距離があるのかわからない」などと言って止めてもいいでしょう。

門を使う場合はMP1、自宅まで門を作る場合はPOW1のコストがそれぞれかかります。



→門を使う

あなたが門に魔力を注ぐと、床に描かれた模様が光りだします。浮くような感覚を覚え、気がつくとあなたは見知らぬ石造りの広間にいました。正気度を-1して下さい。

「おや、参りましたよ」という声に振り向くと、たくさんの黒いローブを纏った人間がいます。彼らはさっと割れて道を開けます。その先には豪華な椅子に鎮座した巨大な怪物がいました。

その怪物の木の幹のような三本足、赤黒い皮膚、何より顔のないのたくった頭は、地獄から這い出てきた悪魔としか形容がつかないおぞましさです。《1d10/1d100の正気度喪失》です。

※ここで正気度が残った場合はもう一度コストを支払い、門から隠れ家に戻ることができる。その後黄色いタクシーで帰った場合は「タクシーエンド」。SAN0になった場合は「狂信者エンド」。

 



◯真ん中の部屋

真ん中の通路をしばらく進むと、部屋の出来損ないのような簡素な空間にたどり着きます。ここも何故か通路と同じように明るいです。

部屋には木製の机があるのみで、机の上には二冊の本と一枚のメモ、そして黄色い電話が置いてあります。



【本】

・八つ折り本(黄衣の王)

表紙に例の花のような印が浮き上がっている、黒くて薄い八つ折り本です。内容は英語で書かれています。題名は「The King in Yellow」と書かれています。

《英語》成功:この本は戯曲らしく、あいまいな夢のような内容です。

一部抜粋:「黒き星の上る奇妙な夜/天空をめぐる奇妙な月たち/それよりもさらに奇妙なるは/失われしカルコサの地」

あなたがこの本を読んでいると、次第に自分が作中の、破滅的な登場人物の一人になったように感じます。《1d3の正気度喪失》です。

そして、あなたが今いる場所すら物語と同化して思えます。目の前には湖が広がり、二つの太陽が沈んでいきます。遠くから掠れた歌声が聞こえます。

※同行者がいればその人も登場人物の一人に感じる。読むのをやめれば収まる。

斜め読み扱いであり、持ち帰って読む場合の処理は最後に記載。下記の「黄色の写本」についても同様。二冊ともハスターの教団が布教のために置いたもの。



・装丁された本(黄色の写本)

しっかりと装丁された厚い本です。こちらも英語で書かれています。題名は「Yellow Manuscripts」と書かれています。

《英語》ロールを行う/《母国語(英語)》で読もうとする→

(技能の成否に関わらず)あなたが本をぱらぱらとめくっただけで、意識の深い部分に本の内容が流れ込んできます。

あなたには、この本が「黄衣の王」と彼の宮廷について詳しく論じたものだとわかります。《1d2の正気度喪失》です。



【メモ】

メモには十桁の数字が書いてあります。区切られ方から電話番号のようだとわかります。



【黄電話】

懐かしい黒電話を黄色に塗ったような見た目です。メモにあった番号に電話すると「はい。こちらは黄印のタクシーです!」と答えます。

あなたが事情を話すと「それはお困りですね。◯分(黒いタクシーから降りるまでの時間)くらいで向かいます。黄色い花の側でお待ち下さい」と言います。

KPへ:番号を知っていれば誰にでも電話をかけることが出来ますが、見知らぬ異世界にいるため上記のメモにある番号以外は役に立たないでしょう。

黄印のタクシー会社の人間は、他の二つの部屋については存在すら知りません。

探索者が外に出て黄色い花の側で待つ→「タクシーエンド」へ



◯右の部屋

右の通路をしばらく進むと、一つの洞穴のような空間にたどり着きました。暗いですが壁にスイッチを見つけることができます。

灯りをつけると、そこには木製の机と、赤黒く汚れた死体がありました。その死体の姿形はどうみてもあなたそのものです。《1/1d6の正気度喪失》です。

※ニャルラトテップの作った本物の探索者の死体。死因はKPの好みで構わない。詳しく調べてみても自分にそっくりだということしかわからない。持ち物はなし。



机の上にはお皿とナイフとフォーク、そしてメモが一枚載っています。メモには「あなたの死をなかったものとし、血肉に変えよ」と書いてあります。

※食べなくても何も起こらない。食べた場合は自身の死肉を口にしたおぞましさに《0/1d3の正気度喪失》



《エンド分岐》

◯タクシーエンド

あなたが言われた通りに花の側で待っていると、黄色いタクシーがやってきて目の前で止まります。

優しそうな運転手が窓から顔を出して「いやぁ、お客さん大変でしたねえ。」と言い、あなたを乗せてタクシーを発車させます。

歪んだ世界を走りながら、彼はふと「あなたを助けて下さったのは神様ですよ」と口火を切り、彼らの信仰する神「ハスター」について語り出します。運転手の一方的な話を聞いている間に、いつの間にか奇妙な空間を抜け、どうやら現実世界に帰ってきたようです。ここはちょうど黒いタクシーが乗り込んだ高速の出口で、あなたは元いた街に帰ってくることができました。

運転手は「どうです?あなたも一度神様にお目にかかっては?」と訊いてきます。



→断る:運転手は「ふっふっふ。冗談ですよ」と言います。

→受け入れる:運転手は「そうですか…では後ほどお迎えに上がります」と言います。

目的地に着いてあなたが降りる時に、運転手は「これからも黄印のタクシーをどうぞご贔屓に」と言ってにたりと笑います。あなたは無事帰宅してベッドに入り、疲れた体を癒すことでしょう。

ご乗車ありがとうございました。「うろんなタクシー」タクシーエンドです。



◯狂信者エンド

あなたが目をさますと見知らぬ石造りの広間にいました。あなたの体は椅子に縛り付けられており、たくさんの黒いローブを纏った男女に囲まれています。

「おや、目が覚めた様子です」先ほどの運転手の声がしてあなたが目をやると、そこには豪華な椅子に鎮座した巨大な怪物とうやうやしく控える運転手がいました。

その怪物の木の幹のような三本足、赤黒い皮膚、何より顔のないのたくった頭は、地獄から這い出てきた悪魔としか形容がつかないおぞましさでした。

自分はもう決して元の平穏な生活に戻れない。あなたは確信することでしょう。

お疲れ様です。「うろんなタクシー」狂信者エンドです。



◯デッドエンドA

あなたが目をさますと、見知らぬ石造りの部屋にいました。あなたの体は縛られており、麻痺したように力が入りません。自分の横には同じく縛られた男女が転がっています。

すぐにドアが開き、黒いローブを纏った人間たちが現れました。その中には先ほどの運転手もいます。

彼らは口々に「今日は四体か」「あの方も喜ばれることでしょう」と言い、あなたがたを物のように運んでいきます。

あなたは生贄にされ、日常に戻れないまま哀れな犠牲者として死んでいくことでしょう。

ご愁傷様です。「うろんなタクシー」デッドエンドです。



◯デッドエンドB

運転手はぐったりとハンドルにつっ伏し、動かなくなります。あなたは死体とともに異世界に取り残されました。

車のドアは開かず、運転したところで帰ることもできません。あなたは狭い箱の中に閉じ込められたまま、日常に帰ることなく息絶えるでしょう。

ご愁傷様です。「うろんなタクシー」デッドエンドです。



《報酬》

◯タクシーエンド

SAN回復:1d10



魔道書 (キーパーコンパニオンP18参照)

※持ち帰って読む場合の処理。シナリオ内で減った正気度と合わせて最大減少値を越えることはない。

読んだ後に任意の芸術技能に対して経験ロールを行うことができる。このロールの適用はどちらか片方でも両方でも構わない。

・「黄衣の王」英訳版…正気度喪失1d3/1d6。《クトゥルフ神話》に+5%。呪文はなし。研究し理解するために平均1週間/斜め読みに2時間

・「黄色の写本」…正気度喪失1d4/1d8。《クトゥルフ神話》に+8%。呪文はなし。研究し理解するために平均7週間/斜め読みに14時間



◯狂信者エンド

《1d10/1d100の正気度喪失》正気度が残った場合は、以降一週間ごとに《1d10の正気度喪失》

1d5+2日に一回監禁されて洗脳され続ける。KPが許可すれば継続使用、SAN回復も可能。

クトゥルフ神話技能:1d10+10%



◯タクシーエンド/ハスターに会う (基本ルールブックP224,225参照)

1d10日後に拉致されてハスターに会う。《1d10/1d100の正気度喪失》。探索者が望めばハスターは様々な質問に答えてくれる。

クトゥルフ神話技能:1d10+10%



7.付記

これまでに制作者が当シナリオを回した中で、「タクシーエンド」以外に行ったことはありません。難易度を上げたい場合は制限時間を短くしたり、「目的地まで乗り続ける」の宣言を確認した時点で本部に行ったりするといいでしょう。

運転手を連れて探索した場合、探索者が黄色いタクシーを呼んだ時点でKPの好きにして構いません。いつの間にか逃げていてもいいですし、探索者の望むようにさせてもいいと思います。面倒であれば探索者が黒いタクシーから降りた時点で走り去らせましょう。

「黄色の印」と魔道書の扱いに関して、表記ゆれがあったためキーパーコンパニオンを採用・独自解釈してあります。

2019.07.29…「黄衣の王」を読んだ際の処理に表記ミスがあったため、修正しました。



←戻 作者:うえ/(@ORC_ue)

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